静岡の地酒

三和酒造

 旧清水市域で唯一残っている酒蔵が、この三和酒造です。
 蔵の創業は江戸前期の貞享3年(1687)。県内でもかなり古い酒蔵の一つです。元々は鶯宿梅というお酒を代々造ってきました。初代の鈴木市兵衛が、「酒造用の良水を授けたまえ」と稲荷の神に祈願したところ、満月の夜、稲荷大明神が鶯と化して市兵衛を導いて浅間山麓の梅の枝に止まったとの霊夢をこうむり、その地を掘って清泉を得て酒造業を始めたという伝説が伝わっています。なお、その清泉の場所は清水区西久保の地であり、その地には現在も本社と製品工場があります。なお、現在仕込み蔵は、清流興津川支流の谷津町にあります。

伝統と新しいコンセプト

 三和酒造の銘柄としては「静ごころ(しずごころ)」が馴染みがあります。この銘柄は昭和46年(1971)に酒造業を株式会社化した際に公募して命名したものだそうです。地元清水ではよく飲まれている銘柄です。また、昭和60年(1985)に、静岡県清酒鑑評会純米酒部門で県知事賞を受賞したのを機に、純米酒「羽衣の舞(はごろものまつ)」を発売し始めました。これらは地元で愛される伝統的な銘柄と言えるでしょう。
 一方で平成14年には、従来とは全く異なったコンセプトのもと「臥龍梅(がりゅうばい)」という新しい銘柄を新たに展開しはじめました。小型の仕込みタンクを使い、鑑評会出品酒と米の種類と精米歩合こそ違いますが、同じように丁寧に仕込んだお酒で、全国的にも注目を集めています。
 このように、新しいコンセプトの銘柄を創り出すとともに「International Sake Challeng(インターナショナル・サケ・チャレンジ)」といった海外のコンクールにも出品して入賞したり、海外にも輸出したりと、従来の日本酒の枠組みを破った取り組みをしています。

「静岡型」とは一線を画す華やかな吟醸酒

 三和酒造、というか「臥龍梅」の大きな特徴のひとつに、県内の酒蔵のほとんどで使用している静岡酵母を使っていないということがあります。社長の作りたい酒のコンセプトが静岡酵母でできる酒とは異なるということで、いわゆる静岡型吟醸酒より「味も香りも華やかだが飲み口があっさりしている」と評されるようです。静岡では珍しい吟醸酒、一度試してみてもいいかもしれません。